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野生動物の食性をDNAで解き明かす――糞や胃内容物からわかること

環境省の統計によると、2025年度のクマによる人身被害は全国で238人(うち死亡13人)に達し、いずれも統計開始以来の最多を更新しました。被害は東北6県に集中し、全体の6割超を占めています。同年度の捕獲頭数も約14,700頭と過去最多となり、野生動物の個体数管理は喫緊の課題となっています。

クマに限らず、シカやイノシシなど野生動物が人里に出没する背景には、過疎化による人間活動の縮小に加え、山中の餌資源の年ごとの変動が関係していると考えられています。堅果類(ドングリ)の凶作年には食物を求めて行動圏が人里側へ拡大する傾向が報告されています。

被害を減らすためには、捕獲などの直接的な対策に加え、「何を食べているのか」「なぜ人里に下りてくるのか」を科学的に把握することが重要です。食性を理解することで、出没リスクの高い時期や地域を予測し、先手の対策を打つための根拠が得られます。

DNAメタバーコーディングで食性を調べる

従来、野生動物の食性調査は胃内容物や糞の目視観察によって行われてきました。しかし、消化が進んだ試料では形態による同定が困難な場合が多く、特に植物種の識別には限界がありました。

これに代わる手法として注目されているのが「DNAメタバーコーディング」です。糞や胃内容物に残存するDNA断片を次世代シーケンサー(NGS)で網羅的に解読し、含まれている生物の種類と相対的な割合を推定します。目視では判別できないほど消化が進んだ試料からも、種レベルの情報が得られる点が大きな利点です。

具体的にわかること

野生動物の糞を分析した場合、以下のような情報が得られます。

  • 植物の食物構成:ブナ・ミズナラなどの堅果類(ドングリ)、サクラ類やヤマブドウなどの果実、草本類、農作物(トウモロコシ、カキなど)の摂食割合
  • 動物性食物の有無:昆虫(アリ、ハチ類)、シカなど哺乳類の肉の摂食痕跡
  • 季節による食性の変化:春〜秋にかけての食物構成の推移を追跡することで、農作物への依存度が高まる時期を特定

これらのデータは、個別の地域における出没リスクの評価や、緩衝帯の整備、誘引源(放置果樹や収穫残渣)の管理といった具体的な対策の優先順位づけに活用できます。たとえば、ある地域のクマの糞から農作物由来のDNAが高い割合で検出されれば、その地域では農地周辺の誘引源管理が優先課題であることが科学的に示されます。

分析に必要な試料と流れ

分析には、フィールドで採取した糞が主に用いられます。新鮮な試料ほど解析の成功率は高くなりますが、ある程度乾燥した試料からもDNAが得られる場合があります。試料は冷凍またはエタノール保存で送付いただきます。

分析の流れは以下のとおりです。

  1. 試料からのDNA抽出
  2. 解析対象の選択:植物の食性を調べる場合はITS2領域、動物の食性を調べる場合はCOI領域を使用します。両方を知りたい場合は、それぞれの領域で解析を行います。お客様の調査目的に応じてお選びいただけます。
  3. 選択した遺伝子領域のPCR増幅
  4. NGSによるシーケンス
  5. データベース照合による生物種アノテーション
  6. 報告書作成

自治体・研究者の方へ

政府は2026年3月に「クマ被害対策ロードマップ」を策定し、2030年度までに地域ごとの目標個体数を定めて個体数管理を強化する方針を打ち出しました。環境省も全国統一手法による個体数調査を進めており、科学的データに基づく鳥獣管理の重要性はますます高まっています。

食性解析は、こうした管理計画を立案・評価する際に不可欠な基礎データとなります。バイオインサイトでは、既存のメタバーコーディング解析基盤を活用し、クマ・シカ・イノシシをはじめとする野生動物の食性解析を受託しています。試料の採取方法や保存条件のご相談から対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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